なんだかんだで、まだいます

人類学をやり続けるしつこさには定評がある

ベルリンから来る

留学生向けのワークショップ会場は、古めかしい建物のダイニングルームだった。ハリーポッターの大食堂を小さくしたような部屋である。定刻ギリギリに到着したので、一つだけ空いていた席に座る。 椅子のクッションは不自然に柔らかく沈み、背もたれは極端に…

チップは3ドルだけよ

東南アジアに行き慣れると、どこの国に行くにしても空港タクシーに身構える。ぼったくられるのではないか。トロント・ピアソン空港から市内に走るタクシーは定額制とのことだったので、認可された車両に乗りさえすれば大丈夫らしかった。 次の懸念はチップで…

トロントに入るために

マニラの空港は薄暗かった。 使途の分からない贅沢なスペースが広がっているかと思えば、逆に順路を遮るようにして手摺が備え付けられ人の流れを遮っている。どれが順路なのか分かりにくく、人を混乱させる空間である。 トランジットはこっちか? 恐る恐る進…

異国の災いと運命

地震があったとき、レオナルドは人生で初めての体験に腰を抜かしそうになっただろう。 たぶん奥さんと手を取りあいながら、為す術もなく部屋の中央でしゃがみ込んだ。 今のが地震だよな、すごかったな… と、奥さんと互いに慰め合いながらテレビをつけ、イン…

シェアハウスを通り過ぎる

僕が居間でパソコンを叩いていると、テレビを見ていたハサンが僕の向かいの席に移動してくる。それを僕が視野の端で観察していると、彼はテレビと僕とのちょうど中間あたりに視線を向けて、ほとんどそのまま固まった。話しかけたいのだろうか? 「今日はバイ…

安田祐輔「暗闇でも走る」を読んで考える

去年の冬から、とあるベンチャー企業で仕事をさせてもらってきました。それもこの5月で契約満了で終わりとなります。 その会社の社長が本を出版したので、読みました。 honto.jp アンチ・アマゾンでhonto.jpのリンク。公告ではないです。 概要にあるとおり、…

発達障害を作るのは社会か自然か

「ハイパーアクティブ:ADHDの歴史はどう動いたか」という本を読んだ。ADHDという「障害」をめぐる科学史(医学史)の本。 ハイパーアクティブ:ADHDの歴史はどう動いたか 作者: マシュー・スミス,石坂好樹,花島綾子,村上晶郎 出版社/メーカー: 星和書店 発売…

アメリカに憧れていた高校生の夢と、人類学の本を読んだ今晩との間の距離

高校2年生のとき、アメリカかカナダの大学に行ってみようかなと真剣に考えた時期があった。英語の世界に漠然とした憧れがあって、高1の夏休み1ヶ月間バンクーバーの語学学校に通った経験も夢を膨らませた。そもそも中学に入ってから英語の勉強が趣味みた…

ベトナムの友人と桜木町で飲み交わした(昨日の)思い出

7年来の友人であるベトナム人女性と、昨日、数年ぶりに会った。ベトナム人と聞いて、多くの人は何を思い浮かべるやろうか。近年急増している留学生、コンビニの店員、技能実習生。ベトナム戦争。旅行と、フォーと、バインミー。 その女性は最近、2冊の小説…

発達障害を自覚することは、自分を研ぎ澄ますこと。三つの具体的な、素晴らしい変化について。

自分が発達障害だと気づいた後のこの世界では、とても素晴らしいことがたくさん起きました。 「ラベルを得て安心した」というのはよくある話で、そういう段階は自分にもあった。でも本当に素晴らしいことはそこからもっと先に進んだ場所にあって、それは以前…

非行と社会について。正義のために戦っている友人たちにお願い

世間では、「アメリカ社会は自由と先進性を体現していて素晴らしい」と考えられてる。そこに絶望的な経済格差があることや人種差別の歴史をいつまでも引き摺っていることについては、世間はつい目を逸らす。美しい面に着目してそれを賞賛する。 物事の悪い面…

発達障害というラベルを得て安心した。が、その安心はすぐに賞味期限が切れた。それでどうなったのか?

発達障害というラベルの賞味期限が切れた 自分はどうも他人とは違っているような気がすると若いときから思い続けて、でも誰しも他人と同じなんて有り得ないし、それぞれ何か違うっていう感覚を持ちながら生きるのが普通なんや、というごく妥当な考えで蓋をし…

サンシャワー展、東南アジア現代芸術。当たり前の世界観と当たり前ではない別の世界観について。それを経験する場としての展覧会についての体験記(レビュー)。またヴァンディ・ラッタナ作「独白」について。

「サンシャワー 東南アジアの現代美術展 80年代から現在まで」という展覧会が六本木で開催している。 国立新美術館と森美術館の両方を使って膨大な数の作品を扱っていて、対象の年代も80年代〜現在までと大胆にカバーしてる。東南アジアについての現時点にお…

発達障害の人が、「画像で考える」と言われたり、話に脈絡がなかったり発想が独特だったりするのは、本人の体感としてはどういうことなのか。絵を描いて説明してみる。

思考方法の違いを内側から考える 前回の投稿で、発達障害の人は「違う論理空間に住んでる」ということに触れました。これは具体的には、思考するときに「言語ではなくて画像で考える」ということやと思います。実際、これを示している脳科学の研究成果もある…

発達障害の本人にとって「生きることが辛い」というのは、どういう感覚なのか? 頑張って内面を言語化した結果。

発達障害の人が内面的な体感としてどう感じているのか、生きることについてどういう苦労を持っているのかについて、本人の目から見えるままに言語化した情報というのは少ない。外から見た説明は多いし、それも間違っているわけではないけれども、本人の感覚…

アメリカ人はなぜ虐待に向かったか。回復しつつある今、負の感情を言語に置き換える。それによって分かることと、それでも無くならないもの。

回復するために役立ったもの(時間、メガネ、筆、言葉) 最近、やっと少しずつ、心が回復してきたのを感じる。要因は四つあるように思う。 一つ目は、時間。心にナイフを突き刺されたように痛く、自分の心がドクドクと流血しているのを感じていても、時間が…

右目を隠せば読書が速くなるというシュールレアリスムと、トレードオフされる諸能力を巡るレアリスム、そして脳と閃きの神秘について。

夢の中で、雲の上に迷い込んだ。自分の後を追って、大集団がぞろぞろと迷い込んできた。降りたいなぁと思って、下に見える海と海岸線をのぞいてたら、雲から落っこちた。自分一人じゃなくて、もう一人の人と一緒に落っこちた。パラシュートなしのスカイダイ…

自分の仮説を(途中まで)立証している論文を発見。視覚的な文章も、視覚的でない文章も、等しく視覚的にゆっくりとしか読めない脳について。

最近Googleから検索でここにたどり着く方が増えているようなので、これまでの経緯をおさらいします。アメリカで大学院に入ったんですが、英語の読書スピードが遅すぎて到底やっていけず、誰にも理解されずに支援を受けられないままドロップアウトしました。…

本当の不条理は、それを転覆することができない仕組みになっているからこそ、本当の不条理。それを前にすれば、もう唯々嘆くしかない。

こんだけ心的外傷を負ってしまった理由の一つは、例の障害支援室の対応が、およそ想像できる限りでほとんど最悪のパターンやったことが、大きい気がする。 障害支援室に助けを求めることは、いわば自分に「障害」のラベルをつけられることを受け入れることや…

ノートを取る困難

夢を見た。久しぶりに、ありありと記憶に残る鮮明な夢。とはいえその大部分はすでに忘れた。1シーンだけはっきり覚えている。 教室に座って、教師が講義をしながら黒板に板書をしている。講義は発達障害について。縦書きで右から左に書き進んでいく黒板に対…

憎悪

例の教員への憎悪が渦巻いてる。 人種差別者であり、自分の視点のみから相手をジャッジしていながら同時に自分の判断には微塵の疑義も挟まず、そしてその視点から相手を一方的に見下し、攻撃すると同時に、憐れむ。見下しているからこそ、相手には発言権を与…

正当化、または後悔の念につけるクスリ

気持ちを整理するために、またここを使わせてもらう。 周期性なく時折、大学院を辞めたことが良かったのかどうかという疑問が、むくむくと蘇ってくる。絶対的に正しい判断というのがあるわけじゃないから、常に、理由を並べ立てて自分を納得させるか、説得に…

人の気持ちがわかる事、分からない事、分からない結果として超絶わかるようになってしまった事

「人とのコミュニケーションが苦手。」 「どこがや。むしろダントツやわ。」 という会話を、これまでの人生で何回繰り返したか知らない。もちろん自分は、1行目のセリフを言う役。 しかしそんな会話をしながら、なんでコミュニケーションが苦手なのか、それ…

これは一体なんなんや。この自分の中にある、特殊なような普通なような、良いことをしているような悪さをしているような、大きいような小さいような、掴み所のないこれは。

来週の火曜日には、関西空港に着陸しています。今は何もせず、出発の日を待ちつつ、毎日ゆっくり荷造りをし、小説を読み、映画を見て、たまに人と会っています。 アメリカで受けた学習能力検査で、読むスピード(英語)が「1パーセンタイル」(=「100人の平…

涙、友達が自分を埋めてくれること、映画を支柱にして立つこと

小さい子供やった頃、兄ちゃんと連日のように喧嘩して(いじめられて?)泣き喚いていた。 ある頃から泣くことは減り、喧嘩も減った。それ以来、何か重大なことがうまくいかなかった時の数回を除けば、ほとんど泣いたことはない。が、ここのところ1ヶ月間、…

人間の顔をして博士号を持った、コミュニケーションを生業とするプロの悪魔たち

ちょっと信じがたい話を書きます。 これまで周囲の人に「ほんまか?」と言われてきたのも、ある意味当然で、その人たちは悪くない。 取ってる3つの授業のうち、D先生の授業は、特に読み物の負担が大きくて全く手に負えない。しかし仮に読み物が全部はできて…

複層化する自分の声

目下、完全に辞めるモードで生活している。今日も5ページの小さな課題の締切日やったが、間に合わせないとあかんという危機感はゼロ。すでに先生に対してメールを送り、言っておいた。「間に合いません。遅れて提出してもいいなら、します。どれくらい時間が…

おばちゃん達に取り囲まれて迎える後半40分・0対4の危機

障害支援室から連絡が遅いから、待ちきれずに殴り込んだ。じゃぁ今話そっか、ちょうどメール書こうとしてたとこ、と。いいですよ。 この検査結果を見ると、なんか読む速度だけ氷山のクレバスみたいに極端に低くなってて、どういうことなんやら、よう分からん…

トイレットペーパーから論壇まで、インド人からカウンセラーまで

ここ数日は激動やった。結論からいうと、精神の闘いの意味では一つ山を越えたかもしれない可能性が、全く非現実的ではない気がしないでもない。← 弱気。 ある日には、全くベッドから起き上がれずにただ死亡していた。おそらく鬱と呼ばれてるであろう症状を人…

28年間シャワーを毎日浴びてきて、実は体の洗い方を間違っていてめちゃくちゃ汚いまま毎日を暮らしていたかもしれない可能性について

読むのが遅すぎて自分でドン引きしたので、障害支援室(Disability Office)から保険適用の紹介状を得て、3000ドルの「神経・心理・学習能力検査」を受けました。丸一日朝から夕方まで検査をして、さらにその前後で半日の検査を2回やるという、人間ドック状…

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